2004年2月10〜21日 シリア・オマーン公演  5.シリア・アレッポ
◆ひたすら北へ

 2回目の公演地はシリア第2の都市アレッポ(アラビア読みではハラブ)。
 首都ダマスカスから北へおよそ380km、トルコとの国境付近に位置する街です。
 アレッポへはバスで移動。雄大な景色を見ながらとにかく北上。



 ダマスカスとアレッポのちょうど中間ほどにあるのがハマーという街。
 ここにはローマ時代に作られた大水車があり、今でも12機の水車が回り続けています。
 一番大きいものは直径が20mもあり、世界最大の水車として有名(らしい)。
 この水車、ギギギギギギと大迫力の音を立てて回ってるのだけど、そのすぐ裏手には住宅街が。ここの人たち、うるさくないのかなぁ。
 この日は生憎の雨でしたが、せっかくだからバスを降りて見物。でもめちゃめちゃ寒かった。

 

◆アレッポ

 ようやくアレッポの街へ到着。
 ダマスカスを午前中に出発、着いたのが夕方。およそ7時間のバス旅でした。
 このアレッポという街はダマスカスと古さを競っており、どちらも4000年以上の歴史があると言われています。
 石造りの町並みはダマスカスよりもヨーロピアンテイストが濃い様子。より欧州に近いからでしょうか。
 まず最初に歩いたのが下町風情のある通りで、鍛冶屋や魚屋、肉屋などが軒を連ねる一帯。アレッポ滞在の間泊まるホテルというのがここを抜けた先にあり、道が狭いためバスが入れないので宿までは徒歩。



 徹底的に欧風式のホテルは雰囲気が抜群の4つ星ホテル。
 石の路地を入るとそこが入り口で、中にはこれまたお洒落なエントランスがあります。ホテルの敷地内にも石の小道があり、ガスライトのような明かりが素晴らしいのでこれを利用して写真あそび(笑) CDジャケットみたいなのが撮れました。

 

 アレッポの大きな見所のひとつがアレッポ城。
 街の中心部に位置し、堀の深さが20m、周囲が2kmほどある要害です。10世紀頃から丘の上が神殿として使われ、12世紀の十字軍侵攻後は城として整備され現在に至るそうです。
 夜のライトアップが素晴らしく、これまた惚れ惚れする光景。中の見学は昼間のみなので、今回は時間の都合で入れませんでした。いずれ機会があったら行ってみたいものです。



◆アレッポ石鹸

 何と言ってもアレッポの名産は石鹸。
 アレッポ石鹸といえば世界的に有名で、その良質さが高く評価されています。
 このうち特に有名な会社の工場を見学させてもらいました。Zanabiliという、業界でも高品質で知られる会社で、昔ながらの製法で作るのが特徴。欧州ではGolden Europe Award for Qualityという賞を受賞しており、広く認められている会社なのです。
 街で採れる良質のオリーブオイルとローレル(月桂樹)オイルを混ぜて作り、月桂樹の量で値段が変わります。

 

 Zanabili工場は質素な造りなので、入り口がどこなのか迷うほど。
 入ってすぐのところに社長室があり、なんと社長さん自ら対応してくれました。もうずいぶんなお爺さんですが、部屋に飾ってある写真は賞を受賞してるものばかり。

 社長さんに連れられて工場内部へ入っていくと、つーんとくる何かの匂い。どうやらオリーブと月桂樹を煮詰めた香りのようです。正直「いいにおい」ではなく、体調が悪いときに嗅ぐとつらい類のもの。



 作業工程は、まず巨大な釜でじっくりコトコト煮込んだ液体を、床にある平たい型の中へドバーっと流し込み、固まるのを待ちます。
 固まったら巨大な熊手のようなもので切り込み、販売サイズにカットしていきます。
 このカットの様子が実におもしろい。
 熊手の先に少年が乗り、それを大人4人ぐらいで引っ張るのです。これで器用にカットしていくのだけど、ラインを取る人はずっと腰を屈めてるのが大変そう。
 乗ってる少年は学校に行ってるのかなぁ。

 

 続いて小さくカットされた石鹸に、ブランドの判子を押していきます。
 これもランクによって月桂樹の数が違うそうで、より多いものが良質。
 全て手作業のため、ちょっと判子がずれてるのもありますが、ご愛嬌。

 この石鹸自宅で使ってますが、ホントいいですよ。冬場でも肌がしっとりとするのが素晴らしい。もともと乾燥した地域で作られてる石鹸なので、保湿効果がキモなんでしょうか。
 とにかく最高。

◆大雪

 アレッポでの公演も無事終わり、再びダマスカスへ戻って次の公演地オマーンへ。
 帰りもバスで移動する予定だったんですが、なんと大雪のため途中の道があやしいとのこと。急遽アレッポから飛行機で行くことになり、現地スタッフの方々は切符の手配に追われました。
 なんとか航空券を確保できたものの、こうなるとバスの名運転手スヘイルさんとはここでお別れです。
 スヘイルさんは英語がほとんど話せません。どれぐらい話せないかというと、私と同じぐらい話せない。
 でもお互い頑張って頑張っていろいろな話をしました。

 私が日本から持っていったカメラ付携帯電話をいたく気に入ったようで「それを200USドルで売ってくれ」と何度も言われました。
 これも最初は何を言ってるのか解らず、自分の携帯に200と表示して渡すのです。私はてっきり「自分の携帯は200ドルした。君のはいくらだった?」と言ってるんだと思い込み、自分の携帯に230と入れて見せました。
 しばらく考えて今度は210と入れて見せてくるスヘイルさん。私は「いやいや違いますってば」という意味で230をもう一度見せる。
 もうお分かりでしょう。値段交渉だったんですねぇ。しかも強情に譲らないように見える私。
 結局スタッフの人が通訳してくれて「日本の携帯電話はシリアじゃ使えないんだよ」ということを説明してくれて、諦めた様子。
 そんな誤解も多々ありながら、たくさん話をしたものです。
 素朴な人柄で二人の女の子のパパであるスヘイルさん、どうもお世話になりました。
 ありがとう。

 アレッポからダマスカスまでの空路は国内線です。その名もシリア航空。
 いわゆる先進国や財政的に裕福な国のエアライン以外は、古い機種をしぶとく使ってることが多いのです。乗る前から勝手に想像してたのだけど、シリア航空もきっとそうだろうと思っていたら、案の定大正解。
 我々が乗ることになったのはボーイング727という、日本では10数年前に姿を消した懐かしのジェット機です。おそらく製造年は1960年代後半から70年代前半という骨董機。
 私的には乗れるのは嬉しいのだけど、不安もいっぱい。


 終始どきどき。
 途中気流も悪く、けっこう揺れました。着陸寸前まで雲の中だし、ひさびさの不安感がたまりません。
 そして雲が切れた瞬間、地面が間近に見え「うおっ」と思ったらそこが滑走路。しかも今までに体験したことのないような見事な着陸でした。こんな凄腕がいるんですねぇ。大したもんだ。途中機内で出たお菓子が美味しかったなぁ。
 さていよいよオマーンへ。

           

 1.出発
 2.オーストリア・ウィーンの夜
 3.シリア・ダマスカス
 4.シリア・パルミラ遺跡
 5.シリア・アレッポ
 6.オマーン・マスカット


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